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活躍するOB ~ 小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン研究~

― 月崎 竜童さん (H12卒) ―
■JAXAで活躍するOB!(2017/06/19)
宇宙を目指すきっかけは、小中学校の理科の時間
 平成12年度卒業のJAXAで活躍するOB・月崎竜童さんからメールが届きましたので紹介します。

 「2000年卒業の月崎竜童と申します。先日中学校の教材向けに記事『小惑星探査機「はやぶさ」,「はやぶさ2」のイオンエンジンと学校教育』を書きました。西奈中学校での教育実習の経験も交えて宇宙開発について書きました。」
 
 なんと小惑星探査機「はやぶさ」,「はやぶさ2」に西奈中の先輩が関わっているとは驚きですね。ぜひ、記事を読んで見てください。
 ■月崎 竜童さん(西奈南-西奈中)■

 2008 年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業後,2013 年に同博士課程修了,博士(工学)を取得。博士論文のテーマは,小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジンの性能向上とプラズマ診断。大学院在学中は,公立中学校,高等学校で教育実習に参加する傍ら,日本学術振興会特別研究員DC1 やNASA ゴダードスペースフライトセンターにてインターンを務める。
 2013 年より宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の助教。専門は電気推進工学。2016 年より1 年間カリフォルニア大学ロサンゼルス校の客員研究員として滞在中。趣味はランニング。(西奈中時代はサッカー部に所属していたそうです) 

 
小惑星探査機「はやぶさ」,「はやぶさ2」のイオンエンジンと学校教育
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 助教 月崎竜童
 https://www.gakuto.co.jp/h28hi/h28hikagaku/kenkyu/(「日本の研究者 月崎竜童」の欄)
図4.H Ⅱ− A ロケットへの搭載作業中の「はやぶさ2」と作業する関係者


1.学校教育と研究の最前線


 私自身が宇宙を目指すきっかけとなったのは,紛れもなく小中学校の理科の時間に眺めていた太陽系の写真でした。

 1990 年代の湾岸戦争を始めとする国際情勢や,バブル崩壊後の日本の閉塞的な社会情勢は,小中学生だった私たち子供からみても,その暗い影を感じ取ることができました。

 そんな社会情勢の中でも,1960-70年代に人類が,遥か数億km 離れた太陽系の惑星に探査機を送り,撮影したその写真が日本の小中学校の教科書に載っている事実に,中学生だった私は大きな驚きと感動を覚えました。
 以来,この分野に身をおいて人類の宇宙進出に貢献しようと,進路を決めました。


 大学院進学を契機に,当時は地球への帰還は難しいといわれていた小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン(図1)の研究を始めました。


 
(図 1.「 はやぶさ 2」に取り付けられた 4 台のイオンエンジン。傍らに化学ロケット。)

 わずか500kg ばかりの探査機にたった60kg 燃料を積んで,イオンエンジンによる人類史上初の小惑星サンプルリターンが実現されました。

 このような探査機の開発や,宇宙の研究は,天才的な科学者一人によるものではありません。JAXA やNASA などの宇宙機関,大学の研究者,実際に製造するメーカー,そして部品を製造する町工場に至るまで,多くの人々に支えられています。

 そして,それに携わる人々から,学校で習う「フレミングの法則」や,「オームの法則」など何一つ抜けても,これらの研究は成り立ちません。最前線と思われるプロジェクトのいずれも,その一つ一つは小中学校での基礎教育の小さな積み重ねの上に成り立っています

 私自身は幸運なことに,生涯を通じて幾人ものとても素敵な先生に出会うことができました。
 研究者以外の人生があるなら,きっと教員を選んだことでしょう。教育実習にも国際会議の合間をぬって参加しました。

 特に中学校は,朝の会,合唱練習,給食,掃除,部活動,休み時間に日誌に赤ペンをいれて返事するにいたるまで多忙です。教師自身の能力を伸ばす時間,新しい教材に割ける時間というのが,限られています。この資料がどれだけお役に立てるかわかりませんが,限られた時間のなかで教員の方々の一助となり,教わる生徒に私が覚えた感動の一部でも届けられれば幸いです。

 
  
   (図2.教育実習中の様子(2009 年))

2.なぜイオンエンジンが重要なのか?

 人類が確立した宇宙への“現実的”な移動手段は,ロケットしかありません。ロケットは世界各国様々ありますが,やや乱暴にいえば, その質量は約100 - 1000t, 費用は数十億-数百億円です。

 そしてそのロケットの大部分は,宇宙に行くための燃料でできています。実際に宇宙に行ける人工衛星や探査機の質量はロケット全体の質量の5% にもなりません。地球の周りを回る人工衛星で2 -3% 程度,地球重力圏を離脱して木星や火星に行くなら0.5 - 1% 程度まで減少します。

 
さらに人工衛星や探査機自身にも,軌道修正や姿勢変更のための小さなロケットと燃料を積んでいます。これらで全体の質量の半分を占めます。そこから,作動するために必要なバッテリー,太陽電池,温度管理のためのヒーターなどの質量を差し引くと,残された質量は0.1% 程度になります。

 例えば,約50 億円の費用で約100t のロケットで探査機を宇宙に送っても,正味に仕事をする装置(例えば,通信衛星なら通信機器,探査機なら科学観測装置)には100kgも割けません。「宇宙に打ち上げた1g は,金1g よりも高い」といわれるのは,このためです。

 仮に,探査機や人工衛星自身に搭載される燃料を10 分の1 に圧縮できるなら,正味に仕事する装置は100kg から約1t まで増やすことが可能となります。


 
「はやぶさ」の場合はもっと過酷で,打ち上げられる質量500kg に対して必要な化学燃料は600kg。つまりイオンエンジンでその燃料を60kg まで下げないことには,小惑星・地球往復航行が成立しませんでした。

 イオンエンジンは,まさに人類がこれまで進出不可能だった未知未踏領域を開拓する上で必須の画期的なエンジンとして,研究開発されてきました。

   
3.イオンエンジンの仕組み

 人工衛星や探査機が宇宙で進む原理を理解するには,運動量保存の法則を理解する必要があります。



 図3 に従来のロケットとイオンエンジンの比較を示します。従来の化学ロケットは,燃料を文字通り化学反応で燃やします。


 その際に出た熱エネルギーを使って排気ガスをロケットのノズルスカートで整流し,前へ加速しています。
 一方のイオンエンジンは,燃料のガスを電磁気の力で,電子と+ イオンに電離させます。


 
電離されたガスとイオンエンジン自体に高電圧をかけておくと,+ イオンは電位の低い宇宙空間の方へ排気され推力を生み出します。

 
電子についても,+ イオンと同じ量だけ傍から排気し,電位を保ちます。

 
従来のロケットとの違いは,排気するガスの速度にあります。イオンエンジンは化学ロケットと比べ10 倍速い秒速20 - 40km の速度でイオンを排気するので,必要となる燃料の質量は10 分の1 ですみます。

 ただし欠点も一つあり,排気されるガスが非常に薄く生み出す推力はわずか数g しかありません。地上からの打ち上げには使えませんし,宇宙空間でも数百kg -数t の人工衛星が加速するには,長時間運転する必要があります。

 また瞬時に姿勢や軌道を変更する際には,化学ロケットが依然として必要です。図1 の「はやぶさ2」のイオンエンジンの傍らに化学ロケットがあるのもそのためです。

 イオンエンジンの科学者は以下の3 点で,研究開発をおこなってきました。
● いかに少ない電力で,燃料のガスをイオンと電子に電離させるのか?
● いかに少ない燃料で,より多くのイオンを排気するか?
● いかに長時間運転できるか?


 
ガスにエネルギーを与え電離させる方法は,日米英独露各国,工夫を凝らしています。
 日本以外の国々のイオンエンジンは,いずれも電球のフィラメントのように,温めると電子が出てくる特殊な材料を活用しています。少ない電力で効率よく多くのイオンをつくれるメリットが有りますが,その寿命がイオンエンジンの寿命を律速し,必要とする電力も1kW 以上と大きいのが特徴です。

 質量が数tの大型の人工衛星に向いています。

 一方,質量わずか500kg 程度の「はやぶさ」で使われたイオンエンジンの場合は,電子レンジなどにも使われるマイクロ波という電磁波で電離させています。
 寿命を律速していた,電子がでる特殊な材料を,マイクロ波におきかえることで数年以上メンテナンス無しで動く優れた寿命性能を実現しています。消費電力も1 台300 - 400W と小さいのが特徴です。


 
「はやぶさ2」では,従来世界最高レベルだった寿命性能を更に改善し,推進性能も他国のイオンエンジンと肩を並べるまでに至りました。

4.イオンエンジンが変える世界

 イオンエンジンの登場によって,小惑星サンプルリターンのみならず,様々な革新がもたらされました。
 例えば商用の通信衛星の燃料は劇的に少なくなり,これまで1 台のロケットで1 つしか打ち上げられなかった人工衛星が,イオンエンジンの燃料の軽量化によって2 台同時打ち上げが可能になり,打ち上げコストが半減しました。

 また,大気摩擦の影響から高度維持が難しい上空200 -400km の超低軌道領域に,人工衛星がとどまり,商用的にも軍事的にも価値がある高解像度の地上データが取得できるようにもなりました。


 それだけでなく,ロケットの失敗によって,目的の軌道に投入できなくなった衛星がイオンエンジンを使って所定の軌道まで復旧できたケースもあります。
 この10 年で急速に発展し,人類の宇宙進出に無くてはならない技術に至りました。科学探査においても,優れた科学データは世界の科学者に与えられ国際協力体制が敷かれる一方で,優れた科学データの“取り方”は国際的な競争下にあります。

 卓越したレースドライバーはメーカーを問わず良い車に乗れるかもしれませんが,優れた車の作り方を各メーカーが教え合わないのと同じです。

 日本は,世界各国200 カ国余りあるなか,人類の科学技術と発展に寄与できる限られた国の一つです。その礎として学校教育に本解説が微力ながら貢献できれば幸いです。
図5.2018 年到着予定の小惑星「Ryugu」と 「はやぶさ2」(イラスト: 池下章裕)
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